文字を綺麗にするための5つのアプローチ
「綺麗な文字」ってどんな文字?
前回の記事では「文字が汚いことによるデメリット」と「文字を綺麗にしていくための方法」についてご紹介しました。
今回はその続きとして、内容をさらに掘り下げ、大人側からお子様への5つのアプローチをご説明します。
さて、お子様に「字を綺麗に書こうね。」と伝えるにあたって、私たち大人が今一度考えておくべきことがあります。
それは『「綺麗な文字」とはそもそもどんな文字なのか?』ということです。
なぜなら、支援者の持っているイメージが具体的であればあるほど、お子様にも明確な目標を伝えることができるからです。
筆者が台湾の「故宮博物院」に行った際、展示されている書道家の作品を目にして「とても綺麗だ」と感じることがありました。
流麗な筆致で書かれた漢字の数々は、何と書いてあるのか判然としなくとも、一目で見惚れるほど綺麗なことには間違いありませんでした。
ここから感じたのは「綺麗」という観点にはさまざまあり、本来は「綺麗」=「読みやすい」ということでは必ずしもないということです。
「気持ちがこもっていること」も「綺麗」の要素といえますし「有名人のサインのように、デザイン性が高い文字」も「綺麗」の一つの形といえるでしょう。
ですから「綺麗に書こうね。」と伝えるだけでは、実はお子様の中で目標が具体化されていない可能性があるのです。
前回の記事では、文字が汚いと「相手に伝えたいことが伝わらず、結果として自分が損をしてしまう」というデメリットについてお話しました。
読む相手の事を考えられていない文字では、将来「試験」「履歴書」「提出物」…様々な場面で誤解を招いてしまうということ。
これを踏まえて、この記事ではひとまず「綺麗」=「相手意識があること」を目標に据えたいと思います。
できれば、お子様には「綺麗に書こうね。」という言葉に付け加えて「目標は、誰にとっても読みやすい文字だよ。」と伝えてあげてください。
余談ですが、学校現場において「読みやすく整った文字」を学習する「書写」の授業は、中学校までで一旦おしまいとなります。
高校からは「芸術としての美しさ」を追求する「芸術書道」へと変化していくのですが、この順番から「形を敢えて崩したり、線を繋げたりして作る美しさ」の土台にも、実は「整えて書ける素地」が必要であることが分かります。
①お子様に合った「筆記用具」を選ぼう
名人はどんな道具でも技量を発揮できる…そんな意味の言葉で「弘法筆を選ばず」というものがありますね。
しかし、お子様の支援においてはむしろ筆を選ぶことが大切です。例として、オレンジスクール鶴見教室でご用意している鉛筆の種類を3つご紹介します。
かきかたえんぴつ | 普通の鉛筆よりも芯が太く、濃くはっきりと書くことができます。書写授業の硬筆指導でもよく使われています。 |
三角えんぴつ | 軸がおにぎり型をしており、自然と適切な持ち方で書くことができます。 |
4Bえんぴつ | 2Bえんぴつよりもさらに柔らかい芯のため、濃く書けるほか、消した時に跡が残りにくい利点もあります。 |
筆記用具にこだわりのあるお子様の場合は、数種類の鉛筆を机に置いておき「使いやすい鉛筆を選んで使ってごらん。」と声掛けすることも、やる気アップに繋がるでしょう。
②土台となる「握力」を伸ばそう
試しに、手に力を入れずに筆記用具を握って、文字を書いてみてください。
どうしても筆圧をかけにくく、どんな人でも「ふにゃふにゃ」とした文字になってしまうことと思います。この実験から分かるのは「筆圧をかけるためには握力が必要」ということです。
握力を伸ばすアプローチとしては、例えば以下のような手立てがあります。
- タオルを使った綱引き遊び
- 鉄棒遊び
- スライムや柔らかいボールなど、感触を楽しめるものを握る
「字を書く練習」というと机にじっと座って行うイメージが根強いですが、実はこうした「身体全体を動かす活動」や「遊び」も、書く力を伸ばすために効果的です。
③ビジョントレーニングで手先のコントロール力をアップ
お子様の中には
「枠の中にちょうどよく文字を収めることが難しく、枠からはみ出してしまう」
「なぞり書きをする際に、線がずれていってしまう」
といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃいます。
こうした状況ですと、ご本人は一生懸命に書いているのに、どうしても「丁寧」という印象を得られず、「もっと綺麗に書きなさい」と言われてしまう悪循環が起きかねません。
では、逆に「文字を枠に収めることができる」「線の上をぴったりなぞることができる」のはなぜでしょうか。
それは「筆記具の先と、枠や線との位置関係を適切に目で追うことができている」からです。
実は「書く」と「見る」は密接に関わっているのです。
ですので「見る」力を高めれば「丁寧に書く」力も高まる効果が狙えるでしょう。
「見る」力を高める方法としては「ビジョントレーニング」がお勧めです。
これは眼球運動、視空間認知、目と手の協応などの練習を通して「ものを見る力」を向上させるトレーニングで、近年では生活全般や学習、スポーツなどに効果を発揮するものとして注目されています。
例えば、学習のウォーミングアップとして以下のような時間を作ってみてはいかがでしょうか。
- 動くものを「眼だけ」でゆっくりと追う
「眼球運動」に関するトレーニングです。
1 ペンをお子様の顔の30cm程前に持っていく
2 「今からペンを動かすので、ペン先を眼だけで追いかけてね。」と伝える
3 上下左右と斜め方向にゆっくりとペンを動かす。ペンを視線だけで追ってもらう。
この時、慣れていないお子様や、見る力に不安のあるお子様は頭ごと動かして追うことがあります。
その場合は、狭い範囲の動きから始めて、徐々に範囲を拡げていきましょう。
- ジオボード
「視空間認知」に関するトレーニングです。「ジオボード」とは、縦横5本ずつの合計25本のピンがついたボードで、このピンにゴムをかけて見本と同じ図形等を完成させるものです。
位置関係や空間を把握する力を鍛えることにより「文字のバランスをとる力」や「お手本に似せて書く力」の向上が期待できます。
④「とめ」の意識を高めよう
小学校の書写指導では毛筆を使用して「とめ・はね・はらい」を確実に行えるよう練習をします。
どれも文字を形作るのに欠かせない三要素ですが、中でも特に大切なのが「とめ」だと考えます。「はね」や「はらい」と比べ「とめ」は登場する頻度が高いからです。
「終わりよければすべてよし」という言葉があるように、最後の締めくくりである「とめ」がしっかりと止まっていれば、それだけでも随分と丁寧な印象を与えることができます。
逆に言えば、形が整っていたとしても、書き終わりがきちんと止まらずおざなりでは、どうしても雑な印象が高まってしまいます。
具体的な支援方法として、以下のようなものが挙げられます。
- なぞり書きをおこなう際、「とめ」を特に意識させたい箇所に予め丸印を打っておく
- 「文字を書き終えたら、心の中で1,2,3と数えてから鉛筆を紙から離そうね。」と声掛けをする
加えて、スピードを上げて走る車が急には止まれないように、スピーディーすぎる運筆は止まることが難しいため「ゆっくり書こうね。」と伝えることも大切です。
⑤「丁寧に書く範囲」を設定しよう
日常の何気ない場面ではついつい適当に書いてしまうというお子様でも、よくお話を聞いてみると
「学校のテストでは丁寧に書いているよ!」
「今は丁寧に書こうとしてないだけだよ。」
「いつも丁寧に書いていたら疲れちゃうよ。」
とお話されることがあります。
そのような場合には、大人から
「それじゃ、今から決める範囲だけは『学校のテスト』だと思って書いてみよう。」
と提案し、働きかけることも効果的です。範囲を決める際には、ぜひお子様の負担感に耳を傾けながら
「どのくらいの量なら『学校のテスト』みたいに書けそうかな。」
と聞いてあげてください。
「丁寧に書く」「綺麗に書く」ことには相応の緊張感が伴い、体力を消費します。
特にお子様の場合は、大人よりも手の筋力が発達途上ですので、分量が多いと綺麗さを保つための「筆圧」や「姿勢の保持」が持ちません。
そのため、
まずは「負担のない範囲まで絞る」
そして「本人が最も丁寧に書いている具体的場面を想定させる」ことを日常的に行いながら
「よそいきの文字」と「平常運転の文字」とのギャップを縮めていくことを目指します。
- その日の教材の中で「このプリントだけは本気の文字で書いてみる」という一枚を決める
- 教材の中で「文字を丁寧に書けたらマル!」という一枚を作る
文字の書き方へ意識を向けるきっかけ作りとして、こうした手立ても効果的です。
おわりに
今回の記事では、お子様が読みやすく綺麗な文字を身に着けるために、大人側からできるアプローチ方法を5つご紹介しました。
アプローチを大まかに種類分けすると
「用具の選定」
「身体や目の力の向上」
「意識の向け方」
という3種類になります。大事なのは、この3つが相互に関わり合い、書く力を高めていくということです。
例えば「用具が良くても、身体の使い方が分からなければ上手く扱えない」ことは想像に難くありません。
また、見る力が高まっていても『今は丁寧に書く場面だ』という意識が無ければ、中々その力を発揮できないのではないでしょうか。
ぜひ、今回ご紹介した3種類の観点を盛り込んでいただき、時には身体全体を動かして、時には座学で…楽しみながら「書く力」を伸ばしていただければと思います。
お子様のこだわり、学習遅滞、不登校、多動、注意散漫、音に敏感、コミュニケーション等に関することで、お悩みや不安なことがございましたら、お気軽にご相談ください。
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